『儚い羊たちの祝宴』がホラーだった件
米澤穂信さんの本は「インシテミル」「ボトルネック」を読了してる。「インシテミル」は途中までは猛烈に面白かったんだけど、最後の展開が個人的な好みではなかった。*1「ボトルネック」は人にはお勧めしないけど、個人的には凄く好きな作品だった。*2オイラ的に米澤穂信さん3冊目となるのが「儚い羊たちの祝宴」です。
作者ご自身の紹介文章を見つけたので貼ってみます。
連作短篇集です。
「秘密の書架」を共有する二人を襲う、酸鼻な不幸。「身内に不幸がありまして」。
その屋敷の一室には、空を紫に塗った絵がかけられている。「北の館の罪人」。
愛らしく、それでいて人跡まれな山荘に、遭難者が消えた。「山荘秘聞」。
わたしの弱さは生まれつきのものだったのだと、いまになって思う。「玉野五十鈴の誉れ」。
「バベルの会」を除名された元会員は、知りたくなかった真実を知る。「儚い羊たちの晩餐」。
- 作者: 米澤穂信
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/06/26
- メディア: 文庫
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雑感など
本屋さんで「恐るべき真相はラストの1行に」という帯を見て「おお!面白そうなミステリーだ!」と思って読み始めたらなんとホラーだったでござるの巻。オイラはホラーは好きだから「ホラーだから嫌だ!」ということは無いし、小説としては猛烈に面白かったんだけど、ミステリとして読み始めただけに心理的肩すかしを食らった感は否めない。ケーキ食べるつもりが、アイスが出てきたみたいな。美味しいアイスだったけどさ。
こういう帯を作っちゃうのは出版社が悪いんだと思うんだよなぁ。*3どう考えても、あの帯みたらミステリーファンが買うし、ミステリとして読んじゃうでしょうが、と。作品としてミステリファンを納得させるようなサプライズもあるので、ミステリファンが読んでも悪くないんだけど、まぁ、なんというか、作品全体に漂う何とも言えないホラー感はミステリ好きが裸足で逃げ出す感じなんだよね。
作品について言及すると、上述のとおり連作短編集なんだけど、作品間に大きなつながりは無い。「バベルの会」という読書会があるという共通の世界観は有るのみ。ともあれ、ホラーファンとしては非常に楽しめた。ホラー小説好きには諸手を挙げてオススメしますが、生粋のミステリファンは手を出さない方が良いかなーとかちょっと思った。たぶん、ミステリを期待していると楽しめないから。
以下、短編について軽く言及しますが、軽いネタバレ入ると思うので、興味がある方は以下の文章を読む前に、是非手にとって読んでみるのをオススメします。
各作品の感想
「身内に不幸がありまして」
なんというか、動機があまりにひどすぎる。この一言に尽きる。なんというか、「バベルの会に属する人はこんな人たちなのか」、と初っぱなから強烈なストレートを受けてしまった。本が大好きな人は一歩間違うとこうなりますよ、とか言われているみたいで怖かったりもした。
「北の館の罪人」
こちらも動機がひどい。そして殺された側もきちんと殺されるのを意識しているのが怖い。ある意味どちらも狂ってる。ただ、その狂った中でも、作品中の色の使い方が秀逸だなーと思った。ああ、なるほど、こういう風にこの色を使いますか、と深くうなずいた。
「山荘秘聞」
これも殺人の動機があり得ない。というか、客ならいくらでも招待できるだろうがっ。助かったんなら助けてやれよ、という感じ。何の話やらという感じですが。まぁ、なんというか、献身さと狂気は紙一重だよな、とか思ったり。
「玉野五十鈴の誉れ」
5つの短編の中ではこれが白眉。これも殺人の動機がおかしいのですが、最後の一行を読むと文字通り背筋が凍る。こうくるか、と。なんというか、彼女はどんな思いをして生活していたんだろうなぁ、と思うとなんというか救いが無い気がする。作品自体には救いがあるだけどさ。
「儚い羊たちの晩餐」
これまた動機が最悪。料理人も真顔でそんなオーダー受けるなよ、という感じ。こちらも依頼人主を含め登場人物が全員歪んでる。ある意味、こういう歪みはみんな持っていると思うんだけど、具現化しないで欲しいな、とか思った。そして狂気は連鎖する、みたいな救われないラストもまた困る。*4
感想
繰り返しになりますが「ホラー好きにはオススメ」「ミステリファンはやめておけ」という感じの作品ですね。もちろん、怖いもの見たさのミステリファンは読んでみても良いと思うけど、間違いなく後悔すると思う。まぁ、後悔しても良いくらいの作品だとは思うけどね。読んでいるときは読む手が止まらなかったから。ほんと文章はうまい。ともあれ、オイラはこの作品をホラーとして読みたかったというのが本音ですね。
あと、文章読みながら「作者はこういうテイストの短編集を書いて精神のバランスを取っているのかな?」と、そんな事をふと思った。